世界トレイルO選手権 出場報告 (田代雅之)

2017年世界トレイルオリエンテーリング選手権大会(WTOC2017)の日本代表でした、静岡OLCの田代です。代表選出にあたり、県オリエンテーリング協会からもご支援をいただきました。まずはご支援、ご注目いただいた皆様、ありがとうございました。
ご報告の機会をいただきましたので、拙文にお付き合いいただければ幸いです。トレイルO用語を文末にまとめましたので、そちらと合わせてどうぞ。

【1】WTOC2017開催地・日程、日本チーム
 開催地はリトアニアのビルシュトナスという温泉保養地で、24の国と地域から125名の選手の参加があったとのことです。
 トレイルOは地図と現地の対応の正確性を競います。WTOCは3種目。2日間の合計で争うPreO(個人戦)、正確性だけでなく地図と現地の対応スピードをも競うTempO(予選・決勝方式の個人戦)、そして1チーム3名のRelay(国別対抗の団体戦)。自分はこのうちTempOの代表として選出され、現地成績次第でRelayへ出場の可能性もありました。


<開催日程>
7月10日:開会式・TempOモデルイベント
7月11日:TempO(予選・決勝)
7月12日:PreOモデルイベント
7月13日:PreO 初日
7月14日:Relay
7月15日:PreO 2日目・閉会式

<日本代表チーム>
選手:岩田健太郎(TempO、PreO[オープンクラス])
小泉辰喜(TempO、PreO[オープンクラス])
田代雅之(TempO)
木村治雄(TempO)
荒井正敏(PreO[オープンクラス])
高柳宣幸(PreO[パラリンピッククラス])
大西正倫(補欠)
コーチ:茅野耕治、小山太朗、松橋徳敏

日本選手団(選手・コーチ・帯同者) 右から二人目が筆者



【2】代表選出から出発まで
 代表選出の打診を受けたのは、フットOのマスターズの遠征でニュージーランドにいるときでした。4月の終わり頃ですね。諸般の事情で代表に選ばれる実績がありながらやむなく辞退される選手もいるので確認の連絡をくれるのですが、もちろんOKしましたともさ。
 とは言え、日本が得意としているPreOではなくTempOでの代表。さてどう準備したものか。トレイルOの世界選手権が始まってはや13年ですが、まだトレーニング方法は確立されてないのではないかと感じています(世界的に見ても)。フットOならコンパス走の練習とか、ルートプランに重きを置いたトレーニングメニューなどが考え出されていますが、トレイルOではまだそういったものは見聞きしません。なので、どんなトレーニングが効果的か自分で考えて試していく必要があるのですが、そんな中、地図と現地の対応スピードを上げるため、持ち歩き易いA5サイズのノートを買って、行く先々で目の前の風景をO-Map風にスケッチする、ということを続けてみました。また、過去のTempOの大会を写真でWeb上に再現してくれているチェコのサイトがあるので、それを繰り返しトライしてみました。多少の成果はあったと信じたい。


【3】プレ大会・WTOC開幕
 来年の世界選手権はラトビアであって、そのプレ大会がちょうど今年のWTOCの直前にあったので、日本チームは調整をかねてそれに参加しました。出発までの練習で、正確性に重きをおいてレースすれば、少なくとも予選は突破できるんじゃないかと思えるようになっていたのですが、プレ大会の成績をみると今のままではそれでもぎりぎりかちょっと足りない感じでした。地図と現地を対応させるスピードがまだ足りてない感じでした。モデルイベントで少し正確性を犠牲にしてスピード重視を試してみましたが、あまりかんばしくありません。フットOでも、過去の成績から普通にレースしても目標順位に届かないからと言って、実力以上のスピードで走れば結局現在地を見失ってタイムをロスする。それと同じだろうと考え、とにかくきちんと地図と現地を対応させて回答する、という戦略で望むことにしました。


【4】TempO
 さてレース当日。クァアランティーンゾーン(レース前に不正に情報取得しちゃうことのないように出走前の選手を隔離するエリア)に入ると少し気分が高揚しますね。でも、この種目は初出場ですが、WTOC自体は過去に出場の経験もあるし、(フットOではありますが)国際大会の運営経験もあるので、世界選手権なるものの雰囲気は慣れているつもり。さすがに緊張はしませんね。
 昨日までに決めた戦略で予選通過が可能か多少の心配は残っていますが、迷いはありません。迷いをかかえたままレースに臨んでもいいことないですしね。
 スタートしてからもいつも通り、ただこれまでのTempOより少しだけ自信を持ってレースしてました。出発前までの練習の成果かな。すべてのステーションを終えてフィニッシュに戻り、ほどなくして速報が出始めました。途中経過で予選突破はちょっと厳しそうな状況でしたが、今の実力は出しただろうから、結果を待つしかないや、などと考えながら最終スタートの選手が戻って来るのを待っていました。
そして結果は。。。

TempO予選競技中の筆者



(結果)予選2組

1位Antti Rusanen (FIN)193.5秒

18位Jan Furucz (SLV)402秒

------- ここまで予選通過 -------------------------------

23位田代 雅之 (JPN)482秒
392秒+3問間違い(30秒x3)

http://wtoc2017.lt/wp-content/uploads/2017/07/WTOC2017_TempO_Qheat2_punchResults_.pdf

 残念ながら予選突破はなりませんでした。やはり悔しいですが、今の力では良くて予選突破がぎりぎりで、決勝で上位を争うにはちょっと自力が足りない感じです。でもそれではつまらない。上を目指すにはもう少し時間が必要そうなので、来年は無理でもその次くらいには上位を争うようになっていたい。
 さて、4選手出場した日本は、岩田選手のみが決勝へ。彼は決勝でも健闘して10ベスト入り。世界のTop10に入るチームメイトがいて、誇らしいですね。


【5】PreO・Relay・閉会式
 PreOは国内予選落ちしているので私のWTOCとしての出場はありません。ただ併設大会には出られるのでそれに参加。
 PreO初日の結果を受けRelay出場メンバーを決定。残念ながらメンバー選考からは漏れました。まぁ仕方ありません。結果を受け入れざるを得ないこれまでの実績でしたし、異論はありませんでした。
 日本チームの成績は下記URLから参照することができます。

http://wtoc2017.lt

閉会式の様子



【6】おわりに
 今夏のWTOCで自分はTempOのそれも予選だけの出場でした。そしてこの種目の世界と自分との力の差を認識せざるを得ない結果でした。ただ、得意とするPreOでの代表でなくTempOでの代表だったことで、この種目で上を目指すにはどうしたら良いか多少なりとも考えたし、そのための準備もしてみました。おかげで苦手意識のあったこの種目にも少しは自信が付きました。これで終わりにするつもりはないので、これからもWTOCの代表になって、PreOでもTempOでも上を目指したいと思っています。
 改めてご支援、ご注目いただいた皆様、ありがとうございました。


【用語説明】(あいうえお順)
・オープンクラス
 障がいの程度や年齢、性別に関係なく、だれもが出場可能なクラス。

・トレイルオリエンテーリング、トレイルO
 地図と現地の対応の正確さを競う、オリエンテーリングの1種別。もともとは車椅子の人もできるオリエンテーリングを、ということで開発されたと聞いています。地図上のコントロール円のそばに行くとフラッグがいくつか設置されていて、円の中心で位置説明と一致するのはどのフラッグかを道上から判断して回答していきます。道だけを使うオリエンテーリングだから“トレイル”オリエンテーリングです。車椅子が通れない所は通行禁止です。

・パラリンピッククラス
 IOF(国際オリエンテーリング連盟)が定める、一定のハンディキャップのある選手のみが出場できるクラス。年齢、性別による制限はありません。

・モデルイベント
 本番に近い状況を選手に体験してもらうためのトレーニングコース。本番の様子に近いテレイン、地図表記、課題の傾向などが体験できます。

・PreO
 Precise Orienteeringの略だと聞いています。
 地図上に描かれたコントロール円のそばに行くと数個のフラッグが設置されていて、円の中心で位置説明に一致するフラッグはどれかを回答します。正しい位置にフラッグが置かれていない場合もあります(正解なし、と回答するのが正解のコントロール)。フットO同様、スタートからフィニッシュまでコントロール円が地図上に書かれていますので、1番から順にコントロール円のそばへ向かい回答していきます。
 全体の制限時間があって、1コントロール当たり5分程度検討する時間が取れるように制限時間が設定されることが多いです。
 上記とは別に、上級クラスではTempO形式の課題を数問回答します。
TempO形式の課題を除いた正解数がそのまま得点で、制限時間をオーバーすると5分ごとに1点減点。得点が多いほど上位です。
 同点の場合は「TempO形式の課題にかかった秒数+ペナルティ秒数」が少ない方が上位となります。

・Relay
 3人1組のリレーでトレイルOを行います。
 1走がまずPreOパートへスタートします。地図上には3の倍数のコントロールが設定されています。どの順番で回っても良く、全コントロールの1/3を回答し、帰ってきたら2走へタッチ。2走は残りの中から半分(全体の1/3)を回答して3走へタッチ。3走は残り(全体の1/3)を回答して帰ってきます。
 制限時間はチーム全体で何分、と決められていて、何走が何分使うかはチームの自由です。
 これとは別にTempOパートがあって、3人ともそれぞれ個別にTempOパートも行います。
 チームの成績は3名の合計です。「TempOパートの成績(3人の合計)」と「PreOパートの3人の不正解数の合計に所定の秒数を乗じたもの」の合計が少ないほど上位です。

・TempO
 命名の理由を私は良くわかっていません。テンポ良く進める、とかからきているのかなぁ。
 地図と現地の対応の正確性だけでなく、そのスピードをも競う種目です。
PreOでは道上を自由に動いて正解フラッグを回答しますが、TempOでは1か所にとどまりそこから動かずに回答します。
 役員によって視界が遮られた状態で所定の位置に誘導されます。視界が開けると前方に5ないし6個のフラッグが見えます。複数枚の地図が重ねられた状態で渡されて計時開始。1枚目の地図から順に円の中心と位置説明に一致しているフラッグを選んでいきます(正しい位置にフラッグがなくて「正解なし」と回答するのが正解の場合もあります)。1枚目の地図を回答したら自分で地図をめくって次の地図を見て回答(1枚目とは違うフラッグが円の中心になっています)。これを渡された地図の枚数だけ繰り返し、1枚目の地図から最後の地図までの回答にかかった時間の短さを競います。正しく回答できなかった地図の分だけ所定の秒数が加算されます。
 これ(上記セットを「1ステーション」と呼びます)を複数個所(複数ステーション)で行い、その合計秒数を競います。

2017年08月19日