第16回世界大学オリエンテーリング選手権大会報告書

朴峠 周子
筑波大学大学院


内容

  1. 2008年に向けて
  2. 現地での調整
  3. レースの評価と課題
  4. ユニバの生活
  5. チームと関係者の方へ
  6. これからに向けて
  7. 謝辞

2008年に向けて

本大会への出場は、前回大会からフィジカル強化を中心に目標を立て評価を得ることが大きな狙いだった。

ユニバとWOCに臨んだ2006年の経験から、特にベースとなる走力がなければオリエンテーリングで競うことはできないと考え、課題として不整地・整地でのスピード強化を掲げた。帰国後はフィジカルトレーニングの量・質を高めてきたが、「今できることを」と焦る気持ちから、秋以降は内臓の機能不良、慢性疲労、頸骨疲労骨折に陥った。5~8月の間は走ること以外で体づくりを行っていた。自己管理の甘さによる代償は大きかったが、トレーニングのバリエーションを増やせたことで2005年度は23時間/月だったトレーニングも、2年後には5~13時間/週こなすようになり、心身をケアすることも良く考えるようになった。そして、走力を中心としたフィジカルの強化はオリエンテーリングの巡航速度アップにつながり、日本でのパフォーマンス向上に結びついていた。

現地での調整

私は、本戦12日前から現地入りした。はじめの1週間は、オーガナイザーとの交渉により、チームメイトと共に自炊・自主トレーニング生活を送った。本戦まで時間があることから、①地図・映像や記憶によってイメージし考えていたことの確認、②独特な地形、湿地・藪の受け止め方とこなし方の実践、③レーススピードでの練習、を行い整理した。

一方で、環境の変化から十分な睡眠を取りにくかったこと、遠征の緊張がほぐれたことから、現地入り1週間後に疲労をどっと感じた。しかし、既に現地で行いたいことは済ませていたため、不安もなく休養を取ることを優先した。本戦宿に移動した10日目から十分な睡眠をとることができ、温存に努めた。本戦に向けて体の状態をベストに持ってくることは良くできた。

レースの評価と課題

私は、スプリント・ロング・リレーの1走区間に出場した。レースに対する目標は、kmタイムを具体的な指標とした。リレーは、チームとしても1走を50分でつなぐことが目標となった。

結果については、2006年とも比較する。

2008年の目標
- ウィニング 目標
種目 距離 アップ コントロール タイム kmタイム タイム比 タイム kmタイム
スプリント 2,900 55 17 00:13:00 4:20/km 110% 00:14:20 4:47/km
ロング 9,300 135 20 01:00:00 6:27/km 140% 1:24:00 9:00/km
リレー 5,400 55 10 00:38:00 7;00/km 130% 00:50:00 9:15/km
2008年の結果
種目 優勝者 結果 順位 タイム比 巡航 ミス率
リレーはコースパターン内での比較
スプリント Seline Stalder 00:14:25 00:18:42 49/69 129.7% 118.3% 7:12/km 12.5%
ロング Bodil holmstrom 01:05:37 02:20:27 73/82 214.0% 143.3% 16:00/km 39.4%
リレー Indre Balarite 00:35:34 00:35:34 11/11 213.3% - 15:33/km -
2006年の結果
種目 優勝者 結果 順位 タイム比 巡航 ミス率
リレーは走順内での比較
スプリント Dana Brozkova 00:14:20 00:17:26 48/61 121.6% 117.9% 6:18/km 4.6%
ロング Dana Brozkova 00:53:22 02:01:27 68/74 227.6% 153.9% 14:12/km 34.2%
リレー Noemi Cermy 00:36:33 00:57:28 15/16 157.2% - 12:06/km -

数字でみると、目標を達成できた種目はなくタイム比は2006年を下回っている。ミス率も高いことから、不安定なオリエンテーリングをしていることがわかる。

スプリント

スタート前は体も良くほぐれていた。序盤のビジュアル区間を終えた後に大きなミスをし、もっと速く走れるという感覚を残したまま走り終えてしまった。

ビジュアル区間を必要以上の緊張なくこなすことはできた。意識的にスタート前後のイメージトレーニングと練習を行ってきたことが活かせたのではないか。

2006年は完全な市街地でありテレイン内の下見が可能だったが、本年は下見もなく湿っぽい草原を含むエリアも含み、状況とフィールドの違いは巡航スピードに生じているだろう。しかし、大きなミスを差し引いても相対的な比率は2年前とさほど変化していない。フィジカル強化はスプリントオリエンテーリングのスピードアップに必要な条件にすぎず、その活かし方こそ追求していく部分であることが示されたと思う。

ロング

スタート後「まずは小径に出る」という意識だけで勢い乗ったことが6分のロスに展開した。その後はすぐに立て直し、他の選手と出会えると自分のナビゲーションを維持しながら大胆に動いていく。しかし、コース65%の時点で蜂(おそらく蜂の1種)に頭を刺され、残りは朦朧としながら完走した。それまでのトップタイム比は152.3%だった。(1ポでの6分ミスを除くと136.7%)

①序盤からオリエンテーリングペースを上げること(無難に走らないこと)、②競り合いでスピードを落とさなかったこと、③10位台、30~40位台のラップを出せていること、について前向きに評価できる。競り合える状況、つまりシンプルにナビゲーションせざるをえない状況では、オリエンテーリングのスピードが上がり、それでもこなせている。その状況下で「すべきこと・できること」に集中できていたからではないか。

アクシデントがあったことから、2006年との比較はあまり意味を持てないかもしれない。しかし、巡行速度が上がっている一方でタイム比の変化は小さいことから、オリエンテーリングのスピードアップにつなげるには、さらにナビゲーションの進め方やスタイルを変えていくことが必要なのではないか。そのやり方は、自分のスタイルとして共通する部分と、テレインに対応する部分とがあるだろう。

リレー

国際大会で初めての1走は、良い意味でとても緊張していた。スタートは先頭集団へ。コースを読み、パターン別に集団が分かれていることを把握する。1番は集団の中で取るものの、背中を追うことに執着し、しばらくして自分の手元が逆正置であることに気づく。集団も自分も見失い25分が経過。その後はなんとか前へ前へ自分を駆り立てた。

スタートで流れに乗ったこと、独走状況で6位のラップを複数出せていることは前向きに捉えたい。2006年は無難にまとめた2走の結果であり、今回とは走り方が異なっていた。しかし、集団での走り方はまだ不安定要素がとても多くリスクも大きい。大きなミスタイムを除いても、今の私のマイナーチェンジでは50分程度のレースに収まってしまうだろう。

1走はその状況把握や情報処理の仕方がスプリントと似ているのではないか。基本的な技術のこなし方に差がつくと、あっというまに切り離されてしまう。他国の選手は、個人種目ではトップのトップではなく中の上~中の下位の選手が多く見られたことからも、決して着いていけないスピードではない。じっくり丁寧に積み上げるアプローチよりも、迫り迫られる状況での実践を重ねることが必要と感じた。

総括

フィジカルを強化したことの成果は部分的に見えている。しかし、オリエンテーリングのスピードアップにはまだ活かせていない。考え方の甘さもあった。また、フィジカルトレーニングは、体の疲労を伴い達成感と変化を得やすいが故に、自然とオリエンテーリングも速くなった感覚に陥り、たまたまこなせたことや危ういナビゲーション場面での原因をフィジカルの要素に結び付けていたのかもしれない。

これから速いオリエンテーリング目指す上で、どの種目にも共通していることは「速いスピードの中で」すべきこととできることの徹底ではないか。スピードを落とせば確実にできることはたくさんある。それらを速いスピードの状況で実践することを考えていく。たとえば、自分よりも速く走る人の中で練習機会を増やし、集中と緊張感のあるオリエンテーリングすることや、意識的に集中状態の波を作れるようあえてレッグに課して練習することなどだろうか。また、スプリントについては、意識して技術的な練習をこなしていくことをもっと考え積み重ねていきたい。よく言われてきたことかもしれないが、自分の経験を通じ実感を伴った。

ユニバの生活

本戦への調整

ユニバは、全種目に出場すると4連戦となる。私はスプリント・ロングの2戦が続いたが、緊張による疲労も大きく、翌日は半日眠り込んでいた。現地でいかに心身の疲れを貯めないか・抜くかということも考えるところだ。特に、不安解消と万全の対策をという意識からトレキャンでやり過ぎてしまう傾向があるので、何を目的として過ごすのか考えると良いだろう。時間の許す場合は、現地入りを早めることもひとつの方法である。

海外選手とのコミュニケーション

他国の選手と話をしていると、彼らのがんばりや純粋な気持ちにハッと気づかされることが多い。自分の現状を振り返ったり、大会を終えた後で考えたり、きっかけを得るような気がする。怖気づかずじっくりと話をしてみる良い機会でもある。

チームと関係者の方へ

チームとしてのコミュニケーション

遠征前に合宿の機会は多く持てたが、事務的な話にも多く時間を割いた。しかし、お互いが普段どのような生活を送っているのだろう、どのようにトレーニングをしているのだろう、何を考えて感じているのだろう、不安や心配はなんだろう、とふと話せるような雰囲気があることが、チームにとっても自分にとっても前向きな力になることを改めて感じた。その中でこそ、チームの方向性や具体的な目標設定が意味を持つと思う。

補欠選手の立場

6月末の最終エントリー直前に、体調の悪化と治療のためチームメンバーが欠場することになった。不安や動揺の中、補欠選手の正式エントリーについて確認し、関係者の方にも力を貸していただいた。これまで曖昧であったことも否めず、私も補欠だった2004年に考えていたが、補欠選手はどのタイミングまで補欠なのだろうか。選手としての心構えや準備に関わることでもあり、チームとしても見えない疑問ではないだろうか。今後、話し合って考えていくことかもしれない。

これからに向けて

私は、もっと大胆に走ること、走れることを感じた。そして、再びオリエンテーリングの速さを見せ付けられた。速いオリエンテーリングを目指す上で、この2年間の成果は確かにある。そして、足りなかったこと、さらにできることがある。海外選手と一緒にトレーニングし国際大会を経験していくことで、成果と課題を得るチャンスを増やし、もっと速いオリエンテーリングを楽しみたい。

謝辞

14名のチームメンバーとは、共に向かったことや乗り越えたことが多かったように思います。長い遠征をさらに長くチームコーチをしてくださった尾上さん、チームマネジメントをしてくださった西脇さんはじめ日本学連技術委員会の方々、現地情報の提供とアドバイスをしてくださった坂本さんや西村君、現地での自炊生活を支えてくれたOK KoblasのNikolai Jarveojaさんとクラブハウスの方々、ありがとうございました。家族の理解と支えも大きく、心の緊張を解してくれてありがとう。体の治療のため出場はできなかった米谷さん、オリエンテーリングを続けたい気持ちに体がついてくるようになることを願っています。


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