第15回世界大学オリエンテーリング選手権大会報告書

朴峠 周子
2005年度日本女子大学卒

WUOC2006 報告書


内容

  1. 大会に臨むまで
  2. 現地にて -トレーニングキャンプ・大会期間-
  3. レース評価
  4. チームとして
  5. これからに向けて
  6. おわりに

1. 大会に臨むまで

目指す気持ち

今回のユニバーに向け、確かな目標として自分の気持ちを保ち始めたのは、前回大会の補欠となってからでした。 2年後にどの種目でどのようなパフォーマンスをしたいのだろうか、これまでの日本人選手の取り組みとその成果も照らし合わせ、 報告書を読み返し、数値結果としても求めたい自分の挑戦にわくわくしていました。 当時現役学生であった私は、やはり目前のインカレで結果を残すことへの意識は強くありました。 インカレでの成果もステップのひとつであり、そのように取り組んできたことは私自身の競技生活においても色々な観点から意義をもたらしてくれました。

体力のベースアップ

インカレを終えた翌4月より、新たな体力づくりのベースアップを図りました。 本年度終了時には、質の維持を前提として「月間30時間以上&200キロ以上」という量を難なくこなせるようになろうと決めてきました。 競技者としてまだまだ少ない量ですが、これまでの積み重ねを踏まえた上です。4月からの3ヶ月、 新たな環境での生活とトレーニングの増量にはメンタル面での不調を感じやすく、トレーニングとメンタルバランスとの兼ね合いに気づきました。

テライン対策

開催される1年以上前には、旧地図を一通り目にしていました。このユニバーを目指していく方々と、地図をやり取りしていたように思います。 カルスト地形という特徴のあるテラインに対して、特別意識した準備をしていたということはありませんでした。 日本の山よりも急峻さはなく、白く走りやすそうだという印象、スピーディーなオリエンテーリングを試されるだろうという想定、 ブリテンからもその要素は掴めました。メンバー間では、発行されるブリテンに合わせテライン・コース特徴について意見交換をしたり、 コースやレッグを組んで考えるようになりました。しかし、私は地図を使った準備にあまり重点を置けず、 早くから手にしていたのにもう少し活用を考えられたのではないかと思うのです。
スプリントでは、旧市街地を走るということで、実際に観光ブックに記載される地図とも照らし合わせてイメージを沸かせ、 また市街地特有の要素を拾い上げ地図上でチェックしました。これまでに経験のない市街地構成だったので、 ポイントをあげていくことも面白く、レースへの興味を一層引き立てていました。

リレーに向けて

女子の間では、最終的な走者決定を中心にやりとりを頻繁にしていました。 リレーに特化したトレーニングや話し合いの機会も充実し、意見交換も含めて互いの気持ちをきちんと伝えられたことは、 刺激を与えあい信頼を強めることへとつながりました。しかし、日本チームとしてのシミュレーションはなかなか難しく、 具体的な準備には及びませんでした。

2. 現地にて -トレーニングキャンプ・大会期間-

フィジカルの調整

問題なく過ごせたように思います。トレーニングにもメリハリを持たせ、疲れたと感じたら素直に休養をとりました。 またトレーニングやレース後にはメンバー同士でマッサージをし、体と共に気持ちの疲れも解消していきました。 唯一、競技最終日でありスプリントの翌日でもあるリレーにおいて、スプリントで疲労した部位にパワーの低下を感じました。 しかし連続して走ると決めた以上、完全回復の原理はどうしても難しく、私本来の体力要素でもあるかと思うので、 調整の反省として取り上げることではないと思います。

テラインへの対応

特徴的とされていたカルスト地形でのトレーニング機会を2回ほど持ちました。 ドリーネに対するイメージの違いにうろたえ、山の中では冷静でいられない状況もありました。 チームミーティングにおいてドリーネエリアを通過、またはアタックする際に有効と思われる意識付けや実際のテクニックや危険要素などを取り上げて意見交換し、 実行して成功と失敗を経験していきました。その経験を活かし、自分なりの攻略法を掲げたものの、 レース当日までどこか不安が払拭できませんでした。

スプリントに関しては、事前に競技エリアの下見ができる状況だったので、 その環境を活かし作り上げていた自分のイメージと現地とを照らし合わせる作業ができ、効果的でした。 市街地には何度か足を運ぶ機会があったので、看板や建物などの特徴物を記憶してしまう部分もありました。

生活面

生活環境全般は整っていたように思います。トレーニングキャンプ中の食事を各自で行なうことは現地で知りましたが、 至近のスーパーや市街地にあるお店で食事をできたことにより、心も満たされたような気がします。部屋によって不調が生じたり、 洗濯物の管理をうっかりしてしまったりというアクシデントはありましたが、点検や修理にはすぐ対応してくれたようでした。

他国の選手を見ていて、オンとオフの切り替えが印象的でした。果たして意識しているのかどうかはわからないですが、 フィジカルやメンタルがオフのときは服装も少し違っていたような気がするのです。宿舎に居るだけでも、 ジャージやチームウェアではなく普段着で、そういう部分でも気持ちや体への感覚が変わってくるのかな、と観察していました。

3. レース評価

個人戦の出場種目は、今後も見据えた上で、スプリントとロングという候補を早くから決めていました。

ロング 目標: トップ比140% 結果: トップ比228%

非常にお粗末な結果です。ドリーネ対応は難なくこなせた部分もありましたが、 応用問題をいかに読み解いてシンプルにしていくか、というところで自分なりの道筋を失ってしまいました。 しかし突き詰めてみると、ドリーネだからという特殊要素よりもオリエンテーリング技術要素の甘さが影響しているということが見えてきました。 また、ロングという距離・課題をこなす走り方がまだまだ掴めていません。このレースでは、ミスを重ね更にコンプリートロストをしたこともあり、 体力にはゆとりを残してフィニッシュしてしまうという皮肉な感覚を味わいました。

スプリント 目標: トップ比125% 結果: トップ比122%

何かを予感してスピードが落ちたり、実際に足踏みをしたり、リズム感を保ちつつ連続していた動作がふと崩れる、 その様子は見事に数値に現れていました。コース3分の2辺りで自分に負けそうになり、 少し足の速いスウェーデン女子選手のスピードを利用しました。その先のルートの決断までも委ねてしまったことは、 結果的に大きなロスとなってしまいました。ほんの一瞬の気持ちの隙が自分のバランス維持を難しくするのだと痛感し、 どこかオリエンテーリングの究極を知ることができました。

リレー チーム目標: 前回順位(14/14)以上, 総合的に上にいるオーストリアと競る チーム結果: 16チーム出走中15位

皆川さんからもらった順位を下げてしまい、2走としても自分自身のレースとしても悔いの残るものでした。 レース序盤は、後発となったミックスチームのフィンランド女子と抜きつ抜かれつのペースでしたが、 その後、私のミスで競り合えなくなったこともチャンスを失ったために悔やまれます。 更にミスを引きずり、とても安全で消極的なレースに収束させてしまいました。 リレーをリレーとして走るためには、チームとしても個人としても実戦経験と戦略を重ねていく必要性があると感じます。

4. チームとして

現地で全員が一緒になるまでは、海外長期遠征や現地トレーニングを積んで合流するメンバー、 直前まで国内調整をするメンバーそれぞれでした。合宿だけでなくチームブログやMLを活用して情報提供・交換の場を持てたことは、 お互いにこうありたいと感じたり、頼り頼られるという関係構築につながったように思います。 しかし、世界で戦う日本チームとしての意識はなかなか築けなかったように感じます。 チームとして、リレーにそれを重ね合わせていくことがもう少しできたのではないかと考えています。

5. これからに向けて

すべての目標を達成できませんでしたが、競技者として上を目指していくことへのヒントを得ることができました。 これまで人づてに教わってきたことを、自ら体感できたという新鮮味もあります。 それは、単にこの大会に出場しある結果を得たためだけでなく、ここまでの準備があったからこそ、とも思います。

速く走れるということ

オリエンテーリングのナビゲーション技術とは別に、単純な走力が劣っていることを強く感じました。 技術を鍛錬していくこともオリエンテーリングにおいては大切な側面ですし、 走力・ナビゲーションの複合でオリエンテーリングスピードが出せるものです。 しかし、ある程度まで速く走れるようになって、そこで自らが必要だと感じ習得したいと思える要素があるとも思うのです。 速くなるにもそれぞれの種目・局面に特徴があるので、まずはベースの部分を鍛え、 そこから特化した練習やナビゲーションとの兼ね合いを身に着け、 バリエーションを増やしていけるのではないかと考えています。 4月からの3ヶ月で積み重ねたトレーニングによる進歩はありましたが、 実際のオリエンテーリングに結びつくまでには届きませんでした。 絶対的な期間の短さもありますが、ランニングスピードの活かし方を自分で考えられなかった面も要因のひとつかもしれません。

強くなるために必要な時間

これまでの4年間は半年に一回インカレという舞台がありました。 これは大きなチャンスですが、私は、数年をかけてひとつの結果を残すという意識が周りから言われるほどに生じませんでした。 2年に一度のユニバーシアードに向けて、その2年を更には4年をどのように過ごしていくのかという計画の重要性を感じると共に、 強くなっていくということに決して焦らず、継続していくことを学びました。また、これから目指そうとする世界のシビアな面にもようやく気づきました。 必要な時間をかけ、世界の舞台でパフォーマンスを上げていく選手たちを知ったからでもあります。 「強く速くなる」その考え方が以前と変わったように感じています。

目的と意志

大会後、ハンガリーの選手と話しをする機会を持てました。 その中で、今ある環境に自分が応じていくだけではなく、あくまでも主体は自分であり、 目的を見失わないで環境を作り出していく姿勢と行動力を感じ取ることができました。 よく耳にする話ではありますが、このときばかりはとても自分の心に突き刺さるものがあったのです。

日々のトレーニングは習慣づいていますが、そのトレーニングは何のためであり、どうなるためであるのか、 どれだけ意志を持って継続してきただろうと考えました。それは、自分がどんな選手になりたいのか、そこに行き着くのでしょう。 どこか自分の中で曖昧にしていることは、いつか行き詰る時がくるのかもしれません。

次回のユニバーシアード

本大会後、フィンランドチームは、2009年世界選手権の舞台となる隣国ハンガリーのミシュコルツでトレーニングをしていたそうです。 終わりは次へのスタート。次回のユニバーシアードまで2年を切っています。 私にとっては、3年前のエストニアJWOCから5年の振りのチャンス。自分の成長を残してくると共に、さらに高い目標で挑みます。

6. おわりに

今回の出場に向け、オフィシャルとして同行して下さった尾上さん、国内合宿・練習会の運営や管理に尽力して下さった方々、 事務手続きをして下さった方、また一緒にトレーニングして下さった方々、 様々な形で応援・支援を下さった方々に、感謝の意をこめて、ありがとうございました。 早稲田大学オリエンテーリングクラブやときわ走林会からも暖かい応援をいただけたことに感謝いたします。 私事ですが、挑戦を見守ってきてくださった根本先生そして家族に向けて、ありがとうございました。

一緒に目指してきた14人のみなさんの姿から得るパワーは大きかったです。今後とも共に成長を続けられたらと思います。


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