第14回世界大学オリエンテーリング選手権大会報告書

尾上 秀雄
マネジャー

今後に向けて


内容

  1. はじめに
  2. 外国選手と日本選手の違い
  3. スピードの違い
  4. 直進しか知らない外国選手??
  5. 隣接コントロールのトラブルについて
  6. リレーのチーム作りと練習

はじめに

 一昨年に引き続きオフィシャルとして参加することにした。 日本のオリエンティアが成長していく流れの中に自分を置くことは、ジュニア世代の指導・育成を考える上で有益だと判断したからだ。 JWOCだけでなく、その次のユニバーという世界を知って初めてジュニア世代全体の課題が明確になる。 正に点から面への広がりを感じ取ることができるのだ。 これはユニバーからさらに先にも同じことが言える。 今年は6月末のユニバー、7月初旬のJWOC、7月中旬のワールドカップと時期が連続していたので、1ヶ月の遠征で最初から最後までの流れを同時期に見届けることにした。

個々の結果や反省はそれぞれ報告されると思うので、ここではその一連の流れの中から、私が共通に感じたことをいくつか取り上げ、今後の取り組みを考える上での参考としたい。

外国選手と日本選手の違い

日本選手はなぜ外国選手に勝てないのか? いつまでも永遠の課題のままにしないためには、 何らかの仮説を立ててその対策を実践していかねばならない。 競技人口が少ない、テレインが違う、ヒーローがいるなどなど様々な環境の違いがあり、 それらも一因であるのは間違いないが、私はオリエンテーリングを始める年齢に着目してみた。 これはただ経験年数が長いということではなく、子供のときから始めることによる違いという意味である。

日本のオリエンティアは、ほとんどの選手が大学からのスタートである。 単なる経験の長さの違いだけなら、そのうちに追い付く選手がいても良いはずである。 私は子供の時から始めている外国選手には、競技に必要な「競争心」が自然にそして効果的に備わってきているのではないかと分析した。 そしてそこからオリエンテーリングスタイルの違いが生まれていると見ている。

大学から始める日本のオリエンティアは、まず地図の読み方やコンパスの使い方など知識や技術から入るのがほとんどである。 一方子供のオリエンテーリングはまず競争から始まる。 知識や技術というより、目の前にいるライバルにまず走り負けないことから始まると想像する。 フィンランドコーチのイーキス氏によると「ヨーロッパの選手はまず失敗することから始まり、その失敗を次第に少なくするという過程をたどる。 それに比べて日本選手は、まず失敗しないレースを目指すことから始まり、それから次第にそれを早くしようとしている」というのだ。 私はこれを聞いて通じるものを感じた。

それでは子供の時から始めないと決定的に無理なのか? いやそうではないだろう。 大学から始めたからとしても頭を使って、外国選手が10年掛けて積み上げてきたことを、短期間で同様の状態になるように練習し経験すれば良いのだ。 その一つが単純に競争するという部分だ。 競り合いになったときに負けないオリエンテーリングをする。 そういう部分的な競争を追求する中に、違いを克服する何かが見つかるのではないかと思う。 知恵の出しどころだ。

スピードの違い

ラップ解析のおかげで、多くの人が巡航速度とかミス率という言葉を口にするようになった。 実際は、巡航速度には多くの要素が入っているのだが、単純に走るスピードだと思っている人が多い。 そして外国選手はその巡航速度が速いということになっている。 果たしてどうだろうか?道走りでどんどん置いていかれることを経験した人は少なくないだろう。 しかし走りやすい場所での差はそれほど大きくないものだ。 むしろゆっくりしか進めない不整地での走りが差をつける。 これは物理的に体を移動できるパワーがあるかどうかとは別の要素も大きい。 筆者も北欧の選手が着地した足跡をそのまま真似してたどるだけで、かなり早く走れたという経験がある。 やはり部分的な瞬発力やミクロなルートチョイスによる差が見逃せない。 そういう観点からは早いスピードが容易に持続できるスプリントレースを多くやることが効果的だろう。 そこで他人と競う場面を多く経験し、いろいろな形で速さを追求すべきだ。 外国選手が子供の時から培ってきたものというのはこういう部分に違いない。 今後、学生諸君には是非工夫してもらいたい部分だ。 スプリントレースを多くやれば別の効果も期待できる。 それは足の速いランナーに「これなら自分も勝てるかもしれない」と思わせることだ。 新しい素材のリクルートは重要である。 実はそんなに単純には勝てないのだが、勘違いさせて動機付けするには十分だろう。

直進しか知らない外国選手??

外国選手は実はオリエンテーリングが下手?とまでは言わないが、ルートチョイスは必ずしもうまいわけではない。 番場がロングの6→7番で経験した(真っ直ぐにラフなテレインを進むか、道を迂回して最後に95m登るかの選択肢のあるロングレッグで、迂回を決断して進もうとした時に現れた外国選手につられて、真っ直ぐを選択してしまった)ように、外国選手は直進ルートを取りたがる傾向がある。 実際はO-sportの4/2004号に載った比較記事を見ても迂回が正解だった。 私が指摘したいのは結果ではなく、自分のルートチョイスに固執できなかった点だ。 影響を受けたのは相手が外国選手だったからではないだろうか。 この時現れたパックが日本選手だったらどうだっただろうか。 外国選手は確かに早いし上手だが、何もかも理想的に上手だと思ってしまう必要性はまったくないのだ。

WCupリレーのラストでもそういうことがあった。 佐々木の話によると、ここは道走りだろうというところで外国選手が直進して行ったのでびっくりして再度地図を見直したそうだ。 実際はあきらかに直進は損で、この関連のHPにも男子の優勝争いはここで決まったというストーリーが載っている。

ルートチョイスに関してはテレインの性質にも依るだろう。 北欧のような平らなテレインでは、いつも直進主体に組み立ててもほとんど問題にならないことも理解できる。 そういう意味では、起伏に富んだ日本のテレインでオリエンテーリングをやっている日本選手の方が、必要な部分ではルートチョイスが上手かもしれない。 来年の愛知では、日本選手の方がルートチョイスで有利に展開できる可能性はむしろかなり高い。 大事なことはそのことを認識し、まずは自分の判断に自信を持つことだ。 そして自分たちの得意な部分を延ばして勝負しよう。

隣接コントロールのトラブルについて

今回のユニバーのスプリントでは、問題のあるコントロールセッティングがあった。 IOFのルールでは、隣接コントロールの最小距離は30m(同一特徴物の場合は60m)と定められている。 これは1:10000の地図で6mmの円が半分重なり合う距離だ。 一方スプリント用の地図は1:5000、もしくは1:4000に定められているが、近接コントロールの最小距離に関しては特別な取り決めは無いので同様に30m/60mルールが適用されるべきであった。 ところが実際は6mmの円が半分重なり合う隣接コントロールが4箇所もあり、それがあろうことか、同一特徴物に置かれていたのだ。 実際の距離にして10~15mということで明らかにルール違反。 おかげでミスパンチをする選手が続出して問題となった。 (高野もこれに引っかかってしまった)

この状況は筆者が参加しているIOFのEEC(エリートイベントコミッション)にも報告され、スプリントに関する新たなルール設定の必要性が認識された。 具体的には、15m/30mルールを正式に許容する方向で議論が進んでいる。 また同時にこの距離を守った上でのダミーコントロールの設置も提案されている。 スプリントでは近づいてコントロールが見えてしまったら、あとはアプローチするだけというのが現状なので、許される範囲で最後までオリエンテーリングをさせようという狙いだ。 これも許容される方向で議論が進んでおり、これからスプリントを目指す選手はルールに関しても注目していく必要がある。

リレーのチーム作りと練習

今回のユニバーチームは、日本での強化合宿中に男女ともメンバーが決定され、何回かにわたってチーム作りの話し合いを行うことができた。 リレーシミュレーションを通じて、メンタル的には例年になく良い状態で臨めたのではないかと思う。 男子チームは怪我によって小泉→坂本の変更を余儀なくされたが選手の動揺は最小限に抑えられた。 結果的には1走を走った坂本も番場も理想的な展開には結びつかなかったがそれは別の要因であろう。 チーム作りの過程は十分評価できるものであった。 今後もこのやり方を踏襲していくと良いと思う。

一方リレーのための練習に関しては、その量も増やさなければならないし工夫の余地も大きい。 リレーシミュレーションをしていても、それが具体的にイメージできる部分と、そうでなくただ机上の話として進んでしまう部分があったはずだ。 リレーで必要な要素を一つ一つ洗い出しそれを意識した練習を始めるべき時期だろう。 これはユニバーだけでなく、ジュニアからシニアまで共通した課題だと思う。

最後のミーティングの時に選手から「今後練習すべきことが分かった」という発言があったがこれは非常に大事なことだ。 何をすべきかが分かれば、そのための練習はいくらでも工夫できるからだ。 自分の見付けたヒントを膨らまして工夫を加え十分に準備して次の目標に臨んで欲しい。 そうしてこそ大きな飛躍があるだろう。


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