第13回世界大学オリエンテーリング選手権大会報告書

尾上 秀雄
チームマネジャー

ユニバー報告


内容

  1. オフィシャルとして参加するまで
  2. JWOCとユニバー
  3. 目標設定のあり方
  4. オフィシャルとしての役割
  5. リレーメンバーの決定
  6. 今後に向けて

オフィシャルとして参加するまで

私が今年のユニバーにオフィシャルとして行こうと思ったのにはいくつかの理由があった。 まずここ5年間くらいJWOCの面倒を見るようになってから今後のJWOCのあり方を考えるためにも その先への展開を知る必要性を感じていたこと、 そして今年の選手の半数以上がJWOC経験者だったのでそのヒントが得られそうだと思ったこと、 そして開催場所が奇しくも3年前のJWOCと同じだったので、 その経験を生かしたお手伝いが何かできそうだと思ったことなどである。

JWOCとユニバー

JWOCは大学からオリエンテーリングを始めて1年ちょっとの選手がほとんどであり、技術レベルもさることながオリエンテーリングとの関わりをこれから少し真剣に考え始めようとしている段階なのに対して、ユニバーの方はインカレ入賞レベル以上の選手たちが、これからさらに上を目指そうとしている段階なのでその差異は大きい。最も大きな違いは目標への執着度とそれに向けての取り組み姿勢だろう。

ただ単に外国のレースに出るということだけでは駄目だ。異種のテレインに慣れるという効果はあるが、明確な目標を持ちしっかり準備をした上で挑戦するというプロセスがなければその意味も減少する。そして世界レベルでの大会でそれを経験することが何より重要だ。JWOCはそのための一つの機会なのだが取り組みによって大きな差が出る。つまり準備をして臨めた人はそのサイクルを回した経験が大きく役に立っているのに対し、準備不足で臨んだ人は次への動機づけの段階までで終わっている。今回、各選手の経歴や準備状況と結果(絶対的な成績ではなくその人なりの納得レベル)を見比べてみてその感を強くした。

目標設定のあり方

今年はショート競技で3人がA決勝に進んだ。日本人選手のほとんどがこの予選通過を目標にして来ただけにこの結果は嬉しいことだ。後に続く後輩達にとって目標がより身近にかつ具体的になったことだろう。しかしA決勝では3人とも不本意なできに終わってしまった。この原因はどこにあるのだろう。一つは予選通過の目標があまりにも大きく、その目標を達成した後のことを意識する余裕がなかったことだろう。翌日のレースがうまく行かなかったのは予選の延長線で「できるところまでやろう」という青天井の目標になってしまったためではないだろうか。もともとかなりぎりぎりのところでレースをしているために、さまざまなことに適合する余裕の幅が狭かったということが想像される。これはオリエンテーリングのスタイルにも言えるし体力的な余裕という面でも言えるのかもしれない。目標を明確に見据えることは、余裕の幅を意識するためにも必要なことだろう。

オフィシャルとしての役割

今回のオフィシャルは加賀屋夫妻と私の3名だったので、技術面や生活面以外の環境作りを中心にお手伝いしようと思っていた。具体的には以下のことを行った。

  1. トレキャン以前から現地入りした選手たちのケア
    プレトレキャンの実施(地図、コース、設置、車の運転)
  2. トレキャン~大会期間中の調整・折衝ごと
    トレキャンのアレンジ、宿舎&オーガナイザとの折衝、レンタカーの手配・運転
  3. 各種情報提供
    オフィシャルミーティングの情報伝達、ラップ分析
  4. その他
    薬の管理、タープの設置など

長期遠征中の選手たちとトレキャン1週間前にチェコで合流し、そこでの大会に参加した後、 先に現地入りしたので少し余裕を持ってトレキャンまでの準備をすることができた。 やはり時間的な余裕は可能な限り作り出せると良い。 今回私が選手と一緒に事前の遠征を共にしたのはそういう一連の流れの中で どのように現地対応がスムーズに行われるかを、身を持って知りたかったということもある。 実際に長期遠征をした選手たちは、いきなりトレキャンに飛び込んだ選手たちよりも 生活の流れは非常にスムーズだったと思う。時差、言葉、食事などに対するストレスはあったにしても 制御しやすかったのではないだろうか。反面、いくつかの大会をこなしてきたことによって、 本大会へのピーキングが難しかったかもしれない。一つはトレキャンの位置づけである。 トレキャンのメニューをこなすことと大会に向けての自己調整を行うことに関して選手ごとに ニーズが異なったからだ。幸い3台あった車をやりくりして何とか希望に沿うようにアレンジしたが 今後もこのような形態が続くようなら考慮すべき点だろう。

リレーメンバーの決定

今年はクラシックとショートの成績から比較するとリレーの結果は期待以下だった。これを少し考察してみよう。男子ではクラシック、ショートと好調だった紺野が大きく外し、女子ではショートAファイナル進出を果たした塩田、田島が揃って隣接ポストでのペナとなった。一方では、それまで不本意だった西尾、小泉がそこそこの結果を出し、加藤も最後にベストレースをしている。これは何を意味しているのだろうか?

連日のレースで疲労が蓄積しており、特にリレーの日はオープンの日射で消耗した部分もあるだろう。しかしその条件はみな同じだったはずだ。それまでのレースで実績を出した選手が失敗し、それまで不調だった選手が良い結果を出すということは、そのレースがリレーでありながら個人のレースでしかなかったことを示す。チームとしての目標意識が欠如しており、あったとしても「自分が頑張らなければ・・・」という個人の目標に転化されてしまい普段やってないことまでやろうとしてしまったのではないかと思われる。

これはメンバー、走順を直前に決めていることにも関係があるかもしれない。JWOCでも同様の指摘があり2年前から早めに決定するようにしてそれなりに良い結果を生んでいる。

目標とする国がどことどこで、そこに勝つためにはそれぞれのメンバーがどういう役割を果たせば良いかということが意識されるに越したことはないのである。実はオフィシャル間ではショートやクラシックの結果を分析して他国の戦力分析は行っていたのだが、一部を紹介しただけで用意した客観データを踏まえた検討を選手を交えてやるところまで行かなかった。リレーで成果を求めるためには、次回以降ここまで踏み込んで行く必要があるだろう。

今後に向けて

レースをすべて終了した後のミーティングで全選手からの感想を聞いた。その中に「日本の常識に慣れ過ぎないこと」というのがあった。確かに海外のレースでは日本では経験しない様々な要素がある。今回はやぶの中でのナビゲーションなどがそれだった。それらに対応できるようになるためには、国内のレースや練習のみに満足してはならないのは当然である。

しかし大事なのはどんな異質なものに対しても柔軟に対応できる適応性だろう。必ず新しいことは存在するからだ。レースでは、「できないことはできない」ということを認めた上で対処する柔軟性が求められると思う。

また準備に対する自己満足への警鐘も指摘された。そういう振り返りができたことは本人にとって大きな成果だろう。同じことを私の言葉で言い直すと以下のようになる。

「自己満足」は終わって振り返る時の言葉で準備段階にはふさわしくない。準備段階では「自分の可能性に対する自信」であるべきだ。すべての準備はこれを高めるためにやることだと思えれば怖いものはない。そこで「準備できたこと」自体が「自分の実力」なのだ。

この場で反省したことを具体的な行動にした時に2005年の世界が見えてくるはずだ。


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