第12回世界大学オリエンテーリング選手権大会報告書

柿並 義宏
年度大学卒

報告書


内容

  1. トレーニングについて
  2. 技術的な問題について
  3. トレキャンについて
  4. 大会について
  5. 最後に

1)トレーニングについて

平日のトレーニングは基本的に走ることを中心として行いました。週に1度程度近所の公園の器具を使って上半身のウェイトをやっていました。一回に走る距離はおよそ1時間で、距離にして12~13㎞程度。週末はなるべくオリエンテーリングを行うようにしてオリェンテーリングが出来ない日は15k以上は走るように心がけていました。走るだけのとき心拍計をつけ、心拍に気をつけながらトレーニングをしていました。一応マフェトン理論で示される心拍(私の場合だとおよ'そ153拍/min)になるように走り、トレーニングの終わりに近づいてきたら心拍をあげ、180拍/minを越えるように心がけました。ただし、180/1minを越えて3分以上走ることは不可能に思われました。水曜日にはなるべく渋谷に行き、スピードトレーニング又はLSDを行うようにしました。水曜日の渋谷は、普段は一人で走っていることもあり、人と走ることによる気分転換と意味合いが強かったように思います。
また、オリエンテーリング中の視野が狭いことの原因が普段のランニングトレーニングにあることが分かった(普段走るときも視野が狭い)のでなるべく色々なところをきょろきょろ見ながら視野を広くとるようにしました。ただし、これは単にきょろきょろしているだけなので、実際のオリエンテーリングに生かしていくにはもう少しやり方を考える必要があると思います。
日中走れるときはなるべく地図を持ち、短い時間でプランニング、頭の中で反芻を繰り返しながら走っていました。しかし、仕事の都合等で1週間くらい走れないときがあったりと継続的なトレーニングが出来ていたとは言えない状況でした。その他には普段は登りの練習ができないので富士山に走りに行くことで補いました。それでも足りない気がしました。富士山を登らないまでもマラニツクをもう少しとり入れるべきだった感じています。
一番問題だったのは、仕事がもっとも忙しい時期に当たってしまって、それでもトレーニングを続けたために体力をつける以上に体力を落としてしまったことだと思います。どうしてもトレーニングをしなければならないと言う思いが強くなり、休むことが恐怖となっていました。「休まなければ疲れが取れない」ということと「休んで体力がつかない」という二者択一で後者を選択しました。どうしても走れない日は必ずあるからその時休めばいいという考えでした。結局睡眠が削られていきました。疲労のピークはトータス大会の時に訪れました。大会に行くのに電車で行ったのですが、電車が動き出して30分もしないうちに気分が悪くなり、立っていることが出来なくなりました。普段はこういうことはありません。結局出発までの1週間あまりはほとんどトレーニングをしないという選択肢しか残されませんでした(仕事上無理だったという面もある)。トレーングキャンプではちゃんと睡眠がとれたのでかなりの部分回復したと思いますが万全の体調で臨めたかどうかははっきり言えません。

2)技術的な問題について

一番感じたのはまず技術的な課題をクリアするにしても何にしても0Lをやっている時間が少ないことです。練習で感じがつかめても次の練習まで2,3週間空いてしまうとまたもとに戻ってしまいます。週に何度もは当然出来ないにしても、週に1度は0Lが出来るような環境を作る必要があると感じました。 技術的な面でまず取り組んだのは正置です。この技術は私の0Lの根幹をなすものでありこれがスムースに、無意識のうちに出来るように注意して練習していました。方向が変わることに対して敏感になる、そして、変わったらすぐに正置をする。これを考えながらやっているうちは自分の中では非常にぎこちない感じがします。これをまずなくすことが第一目標でした。同時に、方向が変わって数歩動いてから正置をする傾向があったので変わる直前か変わった瞬間にすぐに正置をするように心がけました。これは大会までにはかなりの程度出来るようになりました。ただし、疲れてくると雑になり、ミスが多くなっていたので体力的な面も併せて課題として残りました。
プランニングの課題はエラーに強いプランニングを立てるようにすることでした。私はいいときと悪いときの差が非常に大きい選手です。この原因の一つに、1つのミスが非常に大きくなる傾向があります。自分のぺ一スで、自分のプラン通りに事が運んでいる場合はスピードに乗って0Lが出来るのですが、一旦エラーが起こってしまうとそれをうまく修正できず、深みにはまっていくことが多いです。博打性の高い0Lをしているとも言えるでしょう。これはミスのスポーツである0Lでは致命的な欠陥といっても言いと思います。これを減らしていくにはプランの段階である程度のエラーに耐えられる(エラーを想定した)プランをしていく必要性があります。
まず、気をつけたのは斜面の方向。自分が今からどういった負度で斜面を横切っていくのかということ。単に登るとか、下るとかだけでなく角度を考慮することで正確性を上げていきました。次はコントロールの周りをあるエリアで囲みこんでいくこと。丸の中を正確に描くことだけでなく、その周りを荒くてもいいから広くデッサンしていく感じ。コントロールの周りを大きく捕らえることで、より正しいエリアに入っていけるようにする。正しいエリアから外に外れないようにする。そういうことが出来ればミスは小さくすることは出来ると思います。こう考えることで実際にレース中、大きなミスにならずにすんだことがあり、一定の効果はあると思います。この部分ももっと高めることにより、より的確な情報を取捨選択できると考えています。
エラーに強いプランニングをしても更にミスをすることはあります。そういう場面に出くわした場合、程度の差はあれパニック状態にあることは間違いないです。この状態から抜け出し、冷静に判断する方法論は今の私は持ち合わせていません。練習方法もわかりません。ただヒントになると思われるのはいわゆる「リロケート0」と呼ばれる練習でしょう。これをやっているときは分からないことが大前提になっている、つまり自分がミスの状態にあることがあらかじめ分かっている、こういう時には比較的うまくリロケーションできます。それはなぜか?思いこみがない分、素直に自分が通ってきたと恩われる部分がトレースできている気がします。こういった練習で現在地が分からなくなったときの手続きを徹底的に身に付けられれば、パニック状態から抜け出せるのではないかと考えています。もう一つはプランニングを強化していくことだと考えています。予想されたエラーだったら余裕を持って対応できるはずです。

3)トレキャンについて

移動にはどうしても車が必要で、更に25歳以上でないと運転できないということでほとんど一人で運転していました。運転は好きなほうで、気分転換にはもってこいだったのですがさすがになれない右側通行で1500㎞以上運転するのはきついものがありました。このことが大会にはそれほど影響を与えなかったとは思いますが、今後は考慮すべき点だと思います。
トレキャンでは、基本動作がちゃんと出来ているか、体調はどうかを中心にチェックしました。あと、練習がだれがちになるので手を抜かず、しっかり走ることを心がけました。初日は最初の練習と言うことで、フランスのテレインを堪能しながら動作のチェック。動きはまずまずで走りきれたのですが、下したての靴を履いて走ったため靴擦れが出来てしまいました。ちょっと注意力を欠いていました。ただし、バンソウコウを貼れば問題なく走れる程度だったのは幸いでした。2日目も調子としてはまずまず。しかしながら1箇所藪の中に隠れて見つからないコントロールがあって、その部分で集中力を欠いてしまったので、体力的なこと、いい感覚で走れたその感覚を大事にしたく、練習を打ち切りました。この判断はそれほど間違っていたとは思いません。同じような形で練習をこなしていました。ただし、いい感じで走れたときでも紺野や高橋より遅れ気味だったので、修正しようといろいろ反省をしていたのですが、いま一つ原因が分からず、自分の中ではまずまず走れているという感覚と他の人と比べたときにどうかというギャップは埋め切れませんでした。だからと言ってあせってどうにかしょうとはせずに、自分の中で自分の気持はコントロールできていたと思っています。
今回のトレキャンでは他の国とレース形式の練習はなかったので自分で気をつけていてもだれてしまいました。そのためコーチの村越さんにランオブをお願いして、緊張感ある練習が出来るように気をつけました。一緒にやっているときはうまく動けたのですが分かれてからは結局集中力を欠いた練習になってしまいました。この辺りに国際大会の直前の調整の難しさを感じます。どうしても大会前だからと言って体力を考えて手を抜いたり、失敗しそうになった適当な理由をつけてやめてしまったりする。だからといってやりすぎると本当に体力的にきつくなってしまう。トレキャンの途中でメリハリをつけた練習を工夫をする必要があると思います。

4)大会について

大会期問中は休みなく毎日レースがあるので疲労を抜くことに注意しました。まず自分でマッサージをすることとマッサージをしてもらうこと。後は水を努めて取ることにしました。ただし、水には多少問題があって配られていたWttelは硬度が高く、お腹がゆるくなりがちでした。水といえども普段なれないものを取ることには注意が必要だと感じました。
レースで一番気を使った点は前回の轍をふまいないこと、すなわちレースに集中すること。集中しているかどうかの一つの目安となるのが私の場合は歩測と自然な正置です。レース前はトレキャンの地図を見たり、前回のユニバの地図を見たりして、やってはいけないこと、やらなくてはいけないことを頭に叩き込むようにしました。全体としてはほぼそれは出来たのではないかと考えています。前回は全くわからなかった世界との差を認識できる走りは出来たと感じています。しかしながらそれはレースの一部にすぎずレース全体として比べられるかと言うと、その部分は満足のいかない結果でしかありません。
レースをレースとしてまとめあげる部分で私が一番欠けているのは危機管理能力です。エラーに対して非常に弱い部分です。これは海外のレースだからと言うわけではなく日本のレースでも同様の傾向があり、いつもむらっけの多いレースをしています。このことはユニバを通じて気づいたことではないのですが、ユニバまでにどうにかできなかったことに対しては悔いが残ります。そして未だに明確な改善策を考えだすに至らない部分でもあります。
世界との差が感じられた部分は、スピード、体力で全くかなわなかったことです。ショート予選でクラシック3位のGomnと同時スタートでした。もちろんコースが違うので単純に比べることは出来ないと思いますが共通コントロールの3番で見える範囲に彼がいました(おそらく30秒差くらいか)。この調子でいけば予選も通るのではないかと考え、一人で走るより競ったほうが速く走れるので、ついていってぺ一スアップできないかと考えました。が、その考えは甘く、一瞬にして見えなくなってしまいました。さらに急激にぺ一スが落ちていくのを感じました。明らかなオーバーぺ一スでした。それでも4番までは15位で一応勝負にはなっていました。しかし、所詮そこまでのスピードと体力しかなかったということです。その後は全体的なぺ一スが落ちてきて、ミスも増えがちになり、これはやばいぞと感じたレッグで2分程度のミスをして(エラーを上手く処理できず)その後はずるずると順位を落としてしまいました。最後のほうは尾根の数も数えられなくなるほど頭は働かなくなっていました。これを単純にぺ一ス配分のミスだと考えることも出来るのですが、例えぺ一スを落としてきちんと走りきったとしても予選を通過できるタイムはでないと思います。スポーツ選手の基本性能の部分で明らかに負けていたということです。ショートの決勝もほぼ同様で、後半スタミナが落ちてきた後、集中力を落とし、レースを台無しにしていまいました。部分的にはエラーを考えたプランニングが出来てミスを押さえることができたのは評価できると恩いますが、最後まで一貫してできなかったこと、それを一貫しておこなうスタミナがなかったことに大きな問題があったと感じています。

5)最後に

その1 オリエンテーリングをいつでも出来る環境をつくること

オリエンテーリングをやろうと思っても一人ではなかなか練習環境は作れません。そんな時に大学やクラブの練習会等に参加させてもらえれば少しでも山には入れます。さらに山の中を走ることで実践的な体力をつけることになると思います。しかし、現在の状況ではいつどこで誰が練習をしているかという情報を集めることは難しいです。そういった情報が簡単に手に入れば練習量を増やすことも可能だと思います。インターネットか何かでそういった情報を一まとめに扱える環境があるといいのではないかと思います。

その2 休む勇気をもつ

大会前に気が張っていると練習にも熱を入れ過ぎになることがあります。今回は特に仕事が忙しく、いつも帰りが遅くなってるにもかかわらず、トレーニングをしなくてはいけないという気持ばかりが先走ってしまいました。その結果トレーニングはしっかりできていたのですが、睡眠時間が削られてしまって逆に体力を失っていくような感じになりました。疲れたら思いきって休むことも重要でしょう。また、働きながらでも夜中遅く走らなくてすむような工夫が必要だと感じました。実際には行いませんでしたが、昼休みに走る、走って通勤する、夕方終業時間後少しだけ抜けて走るなど考えていく必要があろうかと思います。

その3 プランニングに厚みを持たせる

一言で厚みと言っても難しいですが、一かばちかの博打プランニングをしている傾向があると思います。自分はこう進むんだ、というのしか見えていない。ちょっとのエラーに対しても対処が不安定になってしまいました。うまく表現できませんが、もっとプランの範囲を広げ、情報の取捨選択に注意を払っていく必要がありそうです。

その4 体力のこと

今回は自分では出来るだけのトレーニングは積んだつもりです。今の仕事の忙しさでこれ以上トレーニングすることは不可能だと感じました。ただし、前述の通り、やり過ぎてコンディションを崩した感じはあります。しかし、トップレベルとの体力、スピード差はどうしようもなく、その面でせめてショート予選通過レペルヘ持っていくのは無理なのではないかと感じました。結局は仕事の忙しさに左右されて、1年間を通して計画的にトータルでトレーニングを積んでいくことは無理だと思います。

その5 科学的なトレ・一ニング、栄養学

今後強くなるためには食事の面やトレーニング方法をもっと改善していく必要があるでしょう。現在の日本のやり方だとどうしても個人個人の聞きかじりでやっている面が強く、専門家によってしっかりと管理されているわけではありません。こういった面でのサポートがしっかりしてくれば個人の努力はより報われるのではないかと思います。いろいろなトレーニングの本、栄養学の本があって何をすればいいのか(これは専門家にとってもそうなのかもしれませんが)とか判断がつきにくいことが多いです。

その6 オリエンテーリングについて考える

一人であれこれ考えるよりも色々な人で技術的なことを議論することは有意義なことです(個人的に好きであると言うのもある)。一つの課題についていろいろ言い合うのは、自分のオリエンテーリングを見なおすきっかけにもなります。今自分が悩んでいることは他の人はすでに解決したことかもしれないし、自分が普通にやっていることは・他の人にはまったく思いもよらないことかもしれない。こういった情報を交換する場が技術向上に役立つと思います。幸いメールというものは意見の交換がしやすいので、こういうものを積極的に利用していく必要があると思います。


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