トレイル・オリエンテーリング ガイド・ライン
2002.05.11 制定 JOAトレイルO専門委員会
2005 .03. 31 改訂
このガイド・ラインは、IOFの定める国際競技規則付則(Appendix)を基本として、日本トレイル・オリエンテーリング
競技規則について、その解釈・運用、補足および具体的な参考事項を述べたものである。
GL 1 競技クラス (オープン・クラスとパラリンピック・クラス)
1. オープン・クラス (競技規則 7)
1.1 オープン・クラスは特定の競技クラスを指すのではなく、性別、年令、障害の有無および障害の種類・度合いに関係なく障害者と健常者が平等に競技する通常のトレイルOの競技形態をオープン・クラスいう。 したがって、 E,A,B,C,N の各クラスは、すべてオープン・クラスとして競技される。
参考: トレイルOは、従来は障害者だけを対象としたオリエンテーリングであったが、2000年8月のオーストリアでのIOF総会における評議会決議を機に、障害者のみならず健常者も共に競技する(=誰でも参加出来る=Sport for All )形態として確認された。
2. パラリンピック・クラス (競技規則 3、7、8)
2.1 パラリンピック・クラスは特定の競技クラスを指すのではなく、参加者のうち、競技規則3.8および8.1に該当する身体的な移動障害を持つ競技者に関する成績を健常者と区分して評価するために設けるもので、「パラリンピック・クラス」と呼ぶ。 したがってE,A,B,C,D、N の各クラスに、パラリンピック・クラスがある。
また、心臓疾患などがある者、臓器移植者、人工腎臓透析者など、外面から判断できない内科的疾患のために、フットO競技に参加した場合 健常者と平等に競うことのできない者についても、パラリンピック・クラスとしての資格があるとされる。
参考: IPC(国際パラリンピック委員会)基準
"An athlete who cannot participate on reasonably equal terms in a sport for "able-bodied" because of a functional disadvantage due to a permanent disability is eligible for that sport within the International Paralympic Committee programme".
GL 2 地 図 (競技規則 14)
1. 原 則
地図は、オリエンテーリング国際図式規程 (ISOM2000) に基づき作成する。 また最近では、スプリントOのための国際図式規程 (ISSOM) により作成される傾向にあるが、これはスプリントOと同一のテレインを使用する場合が多いためであって、スプリントOについては表記に対する概念が基本的に異なることに留意する必要がある。 ISOM2000のトレイルO図式ガイド・ラインを基本とし、必要に応じてスプリントOを参考にする。
2. 地図の縮尺と記号サイズ
2.1 縮尺は国際大会の標準である1/5,000とすることが望ましいが、テレインの状況、コース距離、初心者向けか経験者向けかなどの競技大会の特性に応じて1/2,500〜1/5,000の範囲内で選択してもよい。
2.2 タイム・コントロール用地図は、なるべく競技用地図と同一縮尺であることが望ましいが拡大してもよい。 ただし拡大範囲は、競技用地図の200%以内とする。
2.3 トレイルO地図を新規に作成する場合, および既存のフットO用の地図を拡大してトレイルO用に使用する場合は、地図記号、線および線スクリーンのサイズはフットOの基準(ISOM2000)の200%(2倍)とする。 1/15,000の地図をそのまま1/5,000に拡大すると、記号等のサイズは300%(3倍)となって大きくなり過ぎ、テレインの詳細な情報が表現出来ない。
また最近では、地図記号、線および線スクリーンの200%表現でも大きすぎるため、ISSOMによる場合の拡大率(150〜160%)が適当とされる傾向にある。
2.4 等高線間隔は 5mを標準とするが、テレインの特性に合わせて2mあるいは2.5mを採用してもよい。 (参考: ISSOMでは2.5mが標準)
2.5 地図のサイズは、車椅子を操作する競技者でも容易に扱えるように必要最小限の大きさとする。 A4サイズ以下が望ましい。
3. 調 査
3.1 トレイルO地図とフットO地図との基本的な違いとして、フットO地図では、テレイン内のあらゆる地点から見て正しい真の平面鳥瞰図として描かなければならないのに対して、トレイルO地図では、デシジョン・ポイント(DP)およびその付近のコース上からコントロールを見たときに、現地と合致するように、正確に表現されていることである。
3.2 既存のフットO用地図を基礎図として利用できれば、非常に有効である。 すなわち、コントロールとして必要な特徴物(部)
がすでに表示されているため、トレイルO向けの再調査と修正を行うだけでトレイルO用の地図として使用できる。 また、コントロール周辺以外のコース部分については、とくに変化がない場合は再調査や修正無しにそのまま使用できる。 ただし、車椅子などの通行に必要な情報 (例えば道幅や階段の有無など)のチェックを欠かしてはならない。
3.3 調査者は、当初の段階からコース設定者、コントローラーおよび作図者と連携して作業することが望ましい。 コース設定と併行して作業することで、コントロール周辺を重点的に調査することが容易となり、非常に効率的となる。
3.4 既存のフットO地図を拡大して再調査する際は、フットOでは無視するような小さな特徴物(部)であっても、コース設計のために拾うことがある。 しかし、必要以上に拾い過ぎないように注意すること。
3.5 調査・再調査にあたっては、デシジョン・ポイント(DP)に留まらず、小道上を行き来してあらゆる角度からコントロールをチェ
ックする。 DPおよびその周辺から見えるコントロール・サイトの地形や特徴物(部)を、イメージどおりに、正しく地図上に表現することが重要である。そのためには多少の誇張表現も必要となる。
3.6 これらの地図への表現は、調査者(コース設定者)の主観によるものであってはならない。第三者が見ても理解できる表現
であることが肝要である。
3.7 確認できる特徴物(部)をより見やすく表現するために、見えない特徴物は表現しなくても差し支えはない。
3.8 フラッグの判断にあたっては、DPの後方(=コントロールの反対側)にある特徴物(部)をチェック・ポイントとする場合もあ
る。 このため、DPの前面のみならずDPをはさんだコントロールの反対側(=後方部分)についても正確な調査と表現が望まれる。 トレイルOではあらゆる方角からの整合性のチェックが求められる。
3.9 タイム・コントロール用の地図作成にあたっては、とくに詳細・正確な描写が要求される。
4. 作 図
4.1 トレイルO地図の作図はフットO地図の作図と同じである。 追加、修正を頻繁に行うため、コンピュータ作図が便利である。
4.2 トレイルO地図では、フットO地図での走行可能度(runnability)の代わりに、次表のような透視可能度(見通しの度合いvisibility)の表現が用いられる。
406 (林:走行可能)および、407 (下生え:走行可能)は使用しない。(オリエンテーリング地図図式規定 第7章「トレイル・オリエンテーリング地図図式規定7.6.1, 7.6.2」参照)
透視可能度記号 |
表 記 |
405 林:見通しが良い |
白 |
408 林:見通しが悪い。 コントロール周辺の特徴物が見にくい |
60% 緑 ドットスクリーン |
409 下生え:見通しが悪い。 低い位置にある特徴物が見にくい。 |
28.6% 緑 線スクリーン |
410 植生:見通しが非常に悪い。 |
100% 緑 |
・ トレイルO独特の記号としては、 831(通過できる階段)および 832(通過できない階段) の二つがある。
4.3: トレイルO地図の作成にあたっては、地図記号、線、線スクリーンのサイズは、フットO地図の基準の200%(2倍)で行う。
(2.3 参考)
4.4 トレイルO地図での作図上の最小寸法は次のようになる。
線の間隔 茶・黒/青 0.5 mm/0.3 mm
点線 2 個
破線 2 個
点線で囲まれた面 5 ドット、直径 3 mm
面 青・黄・緑・灰(100%) 2 mu
黒(スクリーン) 2 mu
青・黄・緑(スクリーン) 4 mu
4.5 トレイルO地図の縮尺はフットO地図の3倍以上の大縮尺となるため、フットOでは実寸表記出来ない特徴物でも実寸表記
が可能となる場合がある。 たとえば、1/5,000の縮尺の場合、4.4項での「面 2mu」は7m平方に相当する。(1/15,000の縮尺の場合は 10m平方となる)。このような特徴物は、極力実寸表記することが望ましい。
5. コースの記入
5.1 コースについては、スタート(△)、番号のついたコントロール(○)およびゴール(◎)の位置を正確に記入する。
5.2 コントロールを示す円(○)は直径6mmを標準とするが、初心者クラスなどには拡大円を使用しても良い。
5.3 エリート・クラスの競技においては、フラッグを1m以下の精度で設置するが、このことは 1/5,000の地図上での表現では 0.2mm以内の精度の作図を必要とする。
5.4 実寸表記されない点状特徴物をコントロールとし、その特徴物のある方向(例えば、北側)にフラッグを設置する場合、コントロールを示す円(○印)の中心は、点状特徴物の中心(重心)とする。 実寸表記されている場合は、実際にフラッグの設置位置を円の中心とする
5.5 地図に円や番号を書くときは、重要な情報をかくすことのないように注意を払う。
5.6 コースの記入にあたっては、原則としてコントロール間を直線で結ぶが、読み易くするために線をカットしたり、誘導の意味を持たせてルートに沿って折り曲げて表現することができる。
5.7 コース用地図を拡大してタイム・コントロール用地図とする場合には、コントロールを示す円も同じ比率で拡大する。
6 印 刷
6.1 トレイルO地図は、大会ごとに詳細な調査を行い作成されることが多く、また、フットO地図のように大量に印刷することはな
い。 大縮尺の地図を使用することもあり、競技用地図としてカラーコピーを使用することが認められている。
ただし、地図およびコンピュータ作図の場合の地図ファイルの扱いについては、現状では明確な規程派ないが、一般にいう著作権についても配慮すべきである。
6.2 コンピュータ作図を導入すると、縮尺の変更や地図上の表記の追加・修正、コース記入、印刷などがきわめて容易にでき
る利点がある。
6.3 高解像度(700dpi以上が望ましい)のカラープリンタなどで必要枚数を直接出力してもよいし、出力した地図を原図としてカ
ラーコピーしてもよい。
GL 3 トレイル・オリエンテーリングのコース設計の原則 (競技規則 15)
本項目は、IOF競技規則 Appendix 1「トレイル・オリエンテーリングのためのコース設計の原則」に準拠している。
IOFオリジナル+対訳はhttp://www.orienteering.com/~trail-o/ に収録する。
1. 目 的
身体的能力が広く異なる全ての競技者にとって、競技会における公正さを保証するために、コース設計に関する標準を
以下に示す。
1.1 本原則の適用
この原則は、国際大会のみならず、それ以外のトレイル・オリエンテーリング 競技大会においても、一般的なガイド・ラインとして適用されることが望ましい。
2. 基本原則
2.1 トレイル・オリエンテーリングの定義 (競技規則 1.1)
トレイル・オリエンテーリングは、地図上に印されたいくつかのコントロールと呼ばれる地点を、指定された順番にまわるスポーツであり、 競技者はコントロールに設置されているフラッグ群のうち、どのフラッグが地図上に印刷された円の中心に該当するものであるかを判断する。 このためには、地図の解読力が要求される。
2.2 よいコース設計の目的
コース設計の目的は、競技者に期待される能力に応じて正しく設計された興味あるコースを提供することにある。 その結果は競技者の技術力を反映した結果=成績となってあらわれる。一般的には優勝者の全コントロール正解率が80%以上となることが望ましい。
2.3 コース設計者の黄金律(ゴールデン・ルール)
コース設計者は、次のことを常に心に留めておかなければならない:
・「地図を解読する」というトレイル・オリエンテーリングの特質
・競技の公正さの確保
・競技する楽しみの提供
・他の関係する運営役員との緊密な連携作業
・関連する他のオリエンテーリング諸原則にそっての行動
・野生生物および環境の保護への配慮
・メディアおよび観戦者のニーズの考慮
2.3.1 トレイル・オリエンテーリングの特質
すべてのスポーツはそれぞれの特質を有している。 トレイル・オリエンテーリングのユニークな特質は、地図を解釈し、未知のテレインと関連づけることにある。 これには、正確な地図読み、コンパス操作、ストレスのもとでの集中力のコントロール、迅速な意思決定、テレイン内における移動などの、走力以外の総合的なオリエンテーリングの技術が要求される。
2.3.2 競技の公正さ
「公正さ」は、あらゆる競技スポーツに求められる基本的事項である。 トレイルOにおいても、コース設計やコントロール設置の各段階において細心の注意を払わなければ、“運・不運”による不平等が容易に生じ得る。 したがってコース設計者は、コースのあらゆる部分において、“すべての競技者が同一の条件下で競技できる” という公正さを保証するために、あらゆる要因について考慮しなければならない。
2.3.3 競技する楽しみ
トレイルOの人気が高まるのは、競技者がコースに満足したときである。 したがってコースの距離、技術的難易度、コントロール位置などを競技者のレベルに見合ったものにするために、注意深いコース設計が必要となる。
2.3.4 野生生物および環境の保護
環境は傷つきやすいものである。 野生生物は平穏を乱され、土地や植生は損傷をこうむりやすい。ここで言う “環境”には、競技エリアに住んでいる人々をはじめ、土塁、フェンス、耕作地、建物や工作物なども含まれる。
テレイン内のダメージを受けやすい全てのエリアについて正しい事前調査がなされ、コースが良く練られていれば、後に残るような損傷を避けることは可能である。
2.3.5 メディアおよび観戦者のニーズ
オリエンテーリングが、スポーツとしての社会的な良いイメージを与えることの必要性については常に考慮する必要がある。 コース設計者は、観戦者と報道機関に対して、スポーツとしての公正さをそこねることなく、競技の経過をできるだけ詳しくフォローできるように努めるべきである。
3. トレイル・オリエンテーリングのコース
3.1 テレイン (競技規則 13)
テレインとしては、最小限の移動しか出来ない競技者、低く固定された車椅子を操作する人や、ゆっくりとしか歩けない人たちなど移動面で障害を持つ競技者であっても、制限時間内に容易に、また安全に回ることができるコースが組めるようなところを選ばなければならない。
通過するルートの状態もテレイン選定上の大きな要因となる。 悪路が多く、それを迂回するルートが無いような、あるいは設けられないようなところは避ける必要がある。 例えば、階段や倒木がある小道は、たいていの場合車椅子利用者にとっては通過できない。 しかし、もし併行する代替ルートを設けることができれば問題はない。 通過する小径が極端なぬかるみ、砂地ではないか、木の根や岩石がごろごろしていないかなどについてチェックし、場合によっては、通行が可能な路面を造作することも検討する。
一般に、車椅子の通行可能な道幅は1mである。(植物が覆いかぶさっていたり、また、いばらなどで手や首を引っかいたりするような可能性がある場合は、これらが通行の妨げとならないように工夫する。) すべての車椅子やハンド・サイクルが通過できるためのスペースの確保が重要であり、とくにDP付近では、コントロール確認のために行ったり来たりする車椅子の方向転換操作が可能でなければならず、必要であれば、所々に 3mまでの道幅がある場所を確保しなければならない。 通行に不適切な小道はすべて立入禁止として、ハッチあるいはクロスで地図上に示し、現地ではテープ等で表示する。 それらは全ての競技者によって確認できること。
ルートとなる道、小道、小径などは、車椅子の通行が容易かつ安全であれば、路面が舗装されている必要はない。
エスコートのつかない車椅子に対する最大許容斜度(スロープ)の範囲は14%で、その部分が20m以上続かないように
しなくてはならない。 また、斜面上でルートが交差するところでの許容斜度は 8%以内である。 この範囲を超える傾斜
の急なところや、砂地・ぬかるみなどの車椅子競技者にとって通過が困難な場所には、移動を助けるための臨時の介助
者や補助器具(ロープや滑車、予備の車椅子など)を配置する必要がある。
コース設計者は、コントロール・サイトおよびコースを設計の前に、そのテレインに十分精通していなければならない。また、地図およびテレインに関する状態が、コースを設定した時の状況と、競技当日とで差異がないかに注意する。
3.2 スタート地区 (競技規則 22)
スタート地区は、次のように設置し運営されることが望ましい:
・集合場所から適度に近く、また、到達するための移動が困難ではないこと
・車椅子競技者にとって十分な待機場所があること
・待機する競技者が、いずれのコントロールのフラッグ群も見ることができないこと
・身体障害者用手洗所および給水設備があること
オリエンテーリングが始まる地点(地図上の△)には、コントロール・フラッグを表示する。
3.3 コース
3.3.1 良いコース
コントロールを結ぶコースの選択は、オリエンテーリングの重要な要素であり、競技の質を大きく左右する。
良いコースは、興味深い地図読みの課題を競技者に提供する。
各コントロールにおける課題は、コースのもっとも重要な要素であり。コースの質を大きく左右する。よいコースは、競技者に興味深い地図読みのチャレンジを提供する。
質のよくないコントロールを多数含むコースよりも、いくつかの(10か所以上の)非常によいコントロール・サイトを持つコースが望ましい。
3.3.2 デシジョン・ポイント(DP) (競技規則19.7、19.8、19.9)
競技者はDPの正面に位置することにより コントロールのフラッグ群のA,B,C・・の判別を行う。 正しく位置しないと、
A,B,C・・の順序が入れ替わる恐れがある。
DPからはコントロールに設置された全てのフラッグと順序が、全ての競技者にとって平等に確認できなければならない。
■1m×1mのウインドウ DPの上方75cmのところを下辺の中央とした縦横1m×1mの架空の窓枠を想定し、その枠中のどの位置からも全てのフラッグが同じように確認できることが必要である。(車椅子、立位の競技者のいずれの目線にも適合する) |
競技者はDPに立ち止まったままで正しいフラッグかの判断を行う必要は無く、DPを離れてルート上を行き来しておこなって良い。 ただし、道を外れてテレイン内に立ち入り、コントロールのフラッグ群に近づいてはならない。 通ってよいのは、ルート上の道や小道、小径だけである。 (場合によっては、小道上の行き来がテープ等によって制限される場合もある。)
非常に見通しがよく、また立ち入り可能なオープン・エリアにDPを設置することがある。この場合はテープを使用して立ち入り制限の範囲を表示する。
DPにおいて歩行競技者は、車椅子競技者よりも前に出てその視野をさえぎってはなららない。 また、DPの背後にある特徴物(部)などに登ることにより、コントロール周辺をさらによく見通すというようなこともあってはならない。 このような不平等を招くような特徴物(部)がDP周辺にある場合は、テープを使用して立入禁止とし、違反者は失格とする。
DPの場所は地図上には表示されない。 競技者はコントロール位置説明表のH欄の矢印表示を手がかりにしてルートを選んでDPに接近し、その場所を発見する。
DPの表示板は、地上に低く設置するが、その場所に到達した全ての競技者にとって確認が容易であること。 また、フットO用のパンチ台の転用は、車椅子を使用する競技者にとってはコントロールを眺める目線の邪魔になることが多いので使用を避ける。
傾斜のある場所にDPを設けてはならない。車椅子競技者にとっては安定性を欠き、きわめて危険である。また、周辺の移動が大きく制限される。
3.5 コントロール
3.5.1 コントロール
コントロールの機能は、構成される複数のフラッグによって、設定された課題を示すことである。それぞれのコン
トロールでは何を課題として競技者に要求するかを明確にし、どのようにすれば正しいフラッグが判断できるかについ
て説明できるように設計されなければならない。
クラス(コース)別に競技者のオリエンテーリング技術に応じたコントロール設計を行う。 特徴物(部)やフラッグの数、距
離、透視可能度などはそのための重要な要素となる。 人工特徴物よりも、出来るだけ自然地形上の特徴部(物)をコン
トロールに使用すると、オリエンテーリングとしての興味が増す。
コントロールに設置された複数のフラッグは、地図上に表示され、また、コース上から確認できるテレイン内の特徴物(部)に置かれる。 トレイルOの地図は、コントロール周辺の地形を正確に、かつ微細に描写しており、チェック・ポイントとなりうる全ての場所からの方角、および距離が正確であること(整合性)が特に重要である。 このため、DPをはさんだコントロールの反対側の描写もまた重要となる。
トレイルOでは、フットOにおけるコンパス・ベアリングのような高度なコンパス操作を特に必要とせず、地図の正置と熟読、現地との照合により課題が解決できるような設計が望ましいとされる。(手や指先が使えない競技者もいるため)
地図上にチェック・ポイントとなる他の特徴物(部)がない場合は、近接しないと確認することができないような小さな特徴物(部)をコントロールとして選んではならない。
DPからコントロールまでの距離は、見通しがよい場所であっても、いたずらに遠くならないように注意する。 およその目安としては E,Aクラスでは40m程度まで、Bクラスでは20m程度まで、Cクラスでは10m程度まで、Nクラスでは5m程度以内が適当とされる。
正解なしコントロールについては、いたずらに難易度を高めないこと。
子供たちのためのコースでは、フラッグの数は2〜3個までとし、コントロール位置説明は用いない。
コントロールは給水、ラジオ・コントロール、報道あるいは観客の観戦地点として用いることができる。
周回コースでなくひとつの道を往復するコースでは、その途中で役員がコントロール・カードをチェックする場合がある。役員は指定されたとおりにコントロールをまわったかをチェックし、パンチされていない列欄があれば不正解として署名する(20.9)。
3.5.2 タイム・コントロール
競技者の地図にはタイム・コントロールの位置を示すコントロールの円は、事前に示されない。 また、タイム・コントロール地点周辺についての詳細な描写は意図的に除かれている必要がある。なお、タイム・コントロールの有無および数の情報についても、競技者には前以っては知らされない。
経験者クラスについては、コースの最初あるいは最後にタイム・コントロールを設ける方法が、運営上容易である。また、経験の少ない競技者向けのクラスでは、コースの最後にタイム・コントロールを設ける方が、競技者にとって精神的に良い影響を与える。
タイム・コントロールに要する時間は、競技の制限時間には含めない。 コース途中のタイム・コントロールで順番待ちの時間が発生するような場合は、運営者はその待ち時間(待機開始と終了時刻)を係員がコントロール・カードに記録し、成績計算時に所要時間から差し引く。
口頭回答で使用される国際音標文字表現を参考までに示す。
A(エー):アルファ Alpha、 B(ビー):ブラボーBravo、 C(シー):チャーリーCharlie、
D(ディー、デー):デルタ Delta E(イー):エコー Echo、 正解なし:ゼロ Zero
課題回答を口頭で行うときは、後続の競技者に回答内容が聞こえないように注意する必要がある。このため、口頭回答に変えて、アルファベットを表示したボードを指差す方法が一般的であるが、障害の程度差があるため画一的におこなってはならない。
口頭回答あるいは指差し回答に代えて、回答ボタンを押すことで所要時間が自動的に計測される「TCチェッカー」という計測機器を使用することがある。その場合は、競技者に対して事前説明が必要である。
タイム・コントロールにおいては、「正解なしコントロール」は設けない。
3.5.3 フラッグ(コントロール・マーカー)
コントロールに用いるフラッグは、IOFの競技規則に沿ったものであること。(競技規則 19.2)
コントロールにおけるすべてのフラッグの位置は、注意深く設計されなければならない。 課題に合った正しいひとつのフラッグを円の中心に置き、残りのフラッグをその周辺に適当にばらまいて配置するようなことは許されない。 全てのフラッグは、理論付け(位置説明で表現あるいは特定)できる位置に設置される必要がある。
フラッグは背の低い人や、車椅子に座っている競技者からも平等に正しく確認できるように設置しなければならない。 しかし必ずしもフラッグの全体が見える必要はない。 例えば、目線上にある穴の中にあるフラッグについている場合でも、その3分の1が見えていて、フラッグであることが確認できればよい。(競技規則 19.3)
フラッグは、その高さから地形変化が判断できるように、標準的な高さに設置する。下端の地上高としては 50cmが推奨される。(競技規則 19.5)
フラッグの設置にあたっては、コース設計者とコントローラーは、どのフラッグが円の中心にあたるものか、また、位置説明に合致しているかについて完全な合意に達する必要がある。 もし、正しいフラッグ位置についていささかでも疑問があるならば、ひとつ、あるいはそれ以上のフラッグを移動することなどにより、両者の合意が得られるように努力しなければならない。
フラッグの数は、初心者には少なく、上級者ほど多いのが通常であるが、数が少なくても設置方法によっては難易度が変化する。 一般的にはDPから見てフラッグが縦方向に並んだコントロールは難易度が高く、横方向に並んだものは判断しやすい。 また、南に向かってコントロールを見る場合、難易度は高くなる。 遠近の差があるフラッグを組み合わせることも難易度を変化させる。
3.5.4 コントロール・サイトの公正さ
コントロールでのフラッグ群は、DPにおいて、競技者が地上に低く座った状態、あるいは立った状態のいずれであっても、同じように確認できなければならない。 また、植生によっていたずらに不明瞭にならないように注意する。 コース設計者は地上レベルに身をかがめたり、座ったり、あるいはひざまずいたりしてコントロール周辺の透視度 (visibility=フラッグの見えやすさ) についてチェックする必要がある。
コントロール・サイトのチェックは、競技が行われる状況と同一条件下で行うことが望まれる。 (一日での同じ時間帯、日差しや雨による透視度への影響などを考慮)
3.5.5近接したコントロール
異なるコントロールのフラッグを極端に近接して設置することは競技者を迷わすことになる。そのような場合は、関係するフラッグが識別出来るように、テープによりコントロール別のフラッグ群を分離・表示する。
フラッグどうしの間隔(距離)についてはとくに規定はないが、明瞭に識別が出来ない限り、同じ位置説明をもつ2個以上のフラッグを近接して設置してはならない。
3.5.6 コントロール位置説明
コントロール位置説明は、不必要な情報を与えるものであってはならない。
IOFコントロール記号ではっきりと、しかも判りやすく表現できないものは、コントロールとしては適切なものとはいえず避けるべきである。 地上の正しい特徴物(部)と地図上に表現されたそれとは、明白に合致していなければならない。
IOF記号に慣れていない競技者のために、日本語による位置説明も用意しておくと良い。(競技規則 18.2)
字の読めないような子供たちや、もっとも難易度の低いコースでは、コントロール位置説明を用いなくても良い。その場合は、円の中心にある特徴物(部)は、明瞭なものであり、地図記号の凡例にあるものと同一のものを使用する。
IOF記号による位置説明において、最も右端の欄(H欄)に矢印を表示する場合がある。 この矢印は、DPからコントロールをどの方角に見なければならないかを示す。 この表記はコントロール周辺に道や小道が多い場合、DPへのルート・チョイスの判断に有効である。 コントロールへのルートが限られている場合には、使用しなくとも良い。(競技規則 18.4)
3.6 ゴール
ゴール・ラインへの最後のルートの部分は、車椅子競技者のために直線の誘導ルートとすることが望ましい。(競技規則 23.2)
ゴール地点においては、コントロール・カードの上の1枚と引き換えに、各コントロールにおけるフラッグ群の正確な設置場所と、正解を記載した「正解表(Solution Map)」が競技者に渡される。 状況によっては正解表を各競技者には渡さず、ゴール付近に掲示してもよい。
競技の公平さを期するため、最終の競技者がスタートするまでは、ゴールでは競技用地図を回収し、また、正解表を配布しない場合がある。
3.7 コースの難易度
コース設計者は幅広い難易度を持つコースを設計することが可能である。 地形が微細で、地図読みの技術的経験を要する所にコントロールを置くか、やさしいはっきりした特徴物(部)に置くかによって、難易度を多様化させることができる。
フラッグの位置とDPの場所を工夫すれば、ひとつのフラッグ群を使用して、異なる(コースの)コントロールを設定することもできるが、この場合はそれぞれの課題フラッグを変える。
競技者が持つ経験の度合いや、詳細な地図読みの技術レベルに注意する必要がある。 初心者および子供向けのコースを設計する場合は特に重要である。子供たちを対象とする場合は、トレイルOの知識や経験不足から不利が発生しかねないので、大人とは別のコースを設けることが望ましい。
4. コース設計者 (The course planner)
コース設計責任者には、良いコースとはどういうものかについての理解力と判断力が求められ、そのためには数多くの個人的経験が必要となる。 また、コース設計の理論各種規定等について精通し、異なるクラス、異なるタイプの競技会についての特有な必要要件を的確に認識していることが望まれる。
コース設計者は、コントロール・サイトに関して競技に影響を及ぼすさまざまな要因、例えばテレインの状況、地図の品質、参加者の競技ルートや観戦者の配置などについて的確な判断が出来なければならない。
コース設計者は、スタートからゴール・ラインまでのコースと、競技運営に対して責任がある。 また、コース設計者の仕事は、競技における重大な過失の発生を防止するためにコントローラーによってチェックされる必要がある。
GL 4 コントロール・カードおよびパンチ器具 (競技規則20.1)
コントロール・カードは以下の仕様を満たす必要がある。
・ 耐水性のものか、プラスチック・ケースなどで保護されていること。
・ 各パンチ・ボックスは、一辺の長さが13 mm以上あること。
・ コントロール・カードは、2枚重ねで使用する。
主催者はコントローラーの承認を得て、ピン・パンチに替わるマーキング器具を使用することができる。
競技者は、自分が所有するピン・パンチを用いることができる。
競技者個々にパンチを渡さず、フットO用のパンチ台を(DP表示ポールをかねて)使用すると、競技者は、ともすればDP
を離れないままに課題フラッグの判定を試みるため、パンチ台の流用は適当とはいえない。
コントロール・カードの見本を添付する。
その他
1、競技規則 1.2
「その他の認められた移動手段」とは、手や足で漕ぐ2輪あるいは3輪自転車、松葉杖、歩行用の杖、およびエスコートの腕をいう。なお、燃焼エンジンつきの移動器具は認められない。
以 上