地質学文化的観点から見た第28回全日本のテレイン

京都府オリエンテーリング協会会長 久保 喜正

 今回京都で開催される全日本の会場は京都市内という都市内に存在し、 なおかつ地形や植生にも恵まれている点でも今までの全日本大会の中で も特筆されるものと自負しております。

 京都は794年の平安京の誕生を源とする1200年の歴史を持つ都会 です。中国の風水学の思想で三方を山に囲まれ、北に高く南に開かれた 盆地にある京都。その東の山々のうち、大文字山、大日山等標高200 〜300mの山々が今回のテレインとなっております。

 京都周辺の、いや関西の山々の殆んどは中世層−1億〜2億年程前に 海の中で誕生したチャート、頁岩(ケツガン)、砂岩から成り立ってお ります。その硬さゆえ火打石として利用されることもあった岩石である ため侵食されにくく平地が発達しにくい、いわゆるオワン型の山と深い 谷が混在する地形が出来ます。

 しかし、今回のテレインとなった奥大文字地区はこれらと全く異なり ます。今から約900万年前、地下深所で出来た花崗岩のマグマが既に あった中世層を押し分けて貫入して出来た花崗岩の土地です。

 京都市内から東山を見ると北東角には京都市内第二の高さの(?)比 叡山(標高848m)がありその少し南に8月16日の盆の送り火・大 文字で有名な大文字山(標高466m)がそびえております。この二つ の山の成り立ちはOLからは離れますが、地質学的に説明すると、チャ ートなどで出来ている中世層の岩盤を押し破って高温のマグマが貫入し、 その高温に接した岩が熱によりさらに硬化したために長い間の侵食に抵 抗して高く残っているものです。この熱変成を受けた岩の事をホルンフ ェルス(ホルンは角(ツノ)のことで角のように硬い岩という意味)と いいます。

 それはさておきその両方の山に囲まれた今回のテレインの主たる部分 を占めるマグマ地帯は風化に弱い花崗岩なので侵食が進んで低くなり、 標高250m〜350m程度の低い尾根が数多く分布しその間に浅くて 広い谷が入り込むOLに最適の地形を作り上げております。砂地の沢に は湧水点も多く、地表付近は著しく風化が進んでいて斜面によっては砂 山のようになり、足元の確保の困難なところもあるほどです。テレイン は大文字山を中心とし概ね市内から見える国有林とその向こうの今回の 主たるテレインとなる私有林に大別されますが、いずれも長年手が加え られず植物が根を張りやすい砂地で又水に恵まれているため大木の多い 自然林が発達しております。一方大文字の南方の山々は中世層の地質で 固いチャートや頁岩の山々でいわゆる関西の地形、植生となっており北 方の花崗岩帯とは異なったテレインとなっております。これらの山々は 余りにも都会に接近しているゆえいわゆる里山といえる山としての歴史 は多分明治時代以後その役目は終わっており、人家の近くにある山とし て普通に見られる炭焼釜跡や無数の小径等が比較的少ないといえるでし ょう。

 今回のテレインのO−マップとしての歴史は、1981年京大OLCの 飛松氏が殆んど独力で作り上げた「大文字」をベースにその後「奥大文 字」として数回のリメイクを繰り返したマップと、小長井氏が京都OL C在籍中に作成した「七福思案処」両マップ を再調査、合成して作成したニューマップが今回の大会では使用されま す。

 会場はすぐ裏に東山が迫る私立東山高校(男子校)をお借りすること が出来ました。標高は約70mです。テレインの最高点は大文字山の東 、如意ヶ岳の標高466mです。コースは概ね標高200m〜350m の所に存在するものと思われます。コースとしてはアップダウンの激しい非常にタフなコース となることでしょう。

 「ふとん着て 寝たる姿や 東山」と歌にも詠まれ山紫水明の諸源と もなった京都市民に親しまれてきた東山、それが今回のテレインです。 春の一日を楽しんで下さい(地質学の知識はコンタ−ズの辻村紀子氏の ご教授です)。


 千年の 眠りを破るか オリエンティア

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ページ作成:第28回全日本オリエンテーリング大会HP担当(joc2001@ns.orienteering.com)
最終更新:2001年11月22日(木)